第37章 願い
「新田さんは、どう?美味しいでしょ。」
「……、ん……。こんな美味しいクッキーは、初めてです……!」
新田さんは、クッキー片手に驚いている。
「大量生産の栄養補助食品と一緒にすんなよ~?」
秀星くんは、得意気な顔を浮かべている。
「何でしょう、これ……。材料からして……、何か違うような……?」
「当たり!イイ勘してるぅ!これはバイオパーツをオートサーバーにブチ込んで作っちゃいないのっ!」
秀星くん、嬉しそう……。新田さんは、秀星くんにおっかなびっくりといった感じで、その挙動を見守っている。
「バイオパーツを使用せずに……?」
「ホンモノの小麦粉から練って作ってんの!」
「本物の……?小麦、粉……?」
「小麦を加工して作る、クッキーやパンなんかの材料になる粉だな。これでも、数十年前まではわりと一般的だったらしい。だが縢、それだけじゃないだろ。砂糖の他に……甘くなるような材料を練り込んでるだろ?」
「さっすがコウちゃん!!よく気付いたね!生地に、ちょ~っと練乳を練り込んでるから、まろやかな優しい甘みが出んの!」
「練乳……?」
新田さんは、不思議そうに首を傾げている。
「練乳っていうのは、牛乳に糖分を加えて、濃縮させたやつのこと。聞いたことない?あ、コンデンスミルクって言った方が、耳馴染みある?俺もつい最近、やっと天然モノが手に入ってさ。」
「……、は、はぁ……。」
新田さんは、目を合わせることもなく俯いた。
「ごちそうさまでした。お茶、とってもおいしかったです。秀星くんも、クッキーありがとう。」
クッキーもお茶も、本当に美味しかった。
「その……、ごちそうさま、でした。」
新田さんは、どこか目を泳がせながら、頭をぺこんと下げた。
「いいよ。可愛い女の子なら、いつでも大歓迎!また来てね~!」
秀星くんは、手を振りながらトレーニングルームから出る私たちを送り出してくれた。狡噛さんは、短く「またな」と口にして、再びトレーニングルームへと入っていった。
「なんか……、思ったより気さくな人たちでした……。親切でしたし……。」
新田さんは、管財課オフィスへの帰り道、視線を前に向けたまま、小さく呟いていた。