第37章 願い
「今、ココに入っている格闘訓練用ドローンが変わるのか?」
狡噛さんが、神妙な顔つきで尋ねてきた。各社のカタログを読んで研究した私でも、その差はイマイチわからないどころか、ぶっちゃけどれも同じにしか見えない。でも、きっと狡噛さんにとっては、これは重大なことなのだろう。
「はい。いま狡噛さんが使っているものが製造停止になってしまって。機能を含めリニューアルされたものに、変更になります。それが、これらのうちどれかになる予定なのですが……。」
私は、管財課のデバイスから、いくらかの候補をホロ展開させる。
「まず、このマシンは駄目だ。」
狡噛さんが、ホロ展開されたマシンを指さして話し始めた。
「使っているメインAI、CPUを見てみろよ。これは、以前別のドローンに組み込まれた際、耐久性に問題があるとして使用中止になったシリーズだ。これはまず却下。次の候補は……、ハードの耐久性は評価できるが、搭載されているAIが貧弱だ。攻撃のパターンが単調になってしまう。これじゃあ、大根役者ならぬ大根格闘家だ。導入したところで訓練にならない。次、一番高価な奴だな。これは、CPUとしては耐衝性のある最も高性能なものを搭載している。だが、ハードの素材は、一昔前に使われていた強化樹脂とプラスチックだ。恐らく、CPUが高価だからハードを安価なもので代替することで価格を抑えているんだろう。だが、格闘訓練用ドローンでそれをやるのは馬鹿だ。ユーザーのニーズを全く考慮していない製品だよ、これは。こんなもん導入したら、耐用年数以内でもハードが破損・負傷者が出るぜ。」
「あ、そっか……。そうやって評価していくんですね……。」
こういうものを選ぶ基準が分からなくて、私は取り敢えず予算とメーカー、レビューを基準にしてしか選んでいなかった。そこから選ぶとき、狡噛さんのような視点で見たことは無かった。
「管財課の人間が、どう選んでいいか分からないのは当然だ。気にする必要は無い。使うのは俺たちだからな。」
「『俺たち』って……。少なくとも俺は、ほとんど使ってねーけど……。」
秀星くんが呆れているのが視界に入った。