第36章 心
交際も結婚も、シビュラシステムが判断して教えてくれるこの社会で、それでも私という「個人」を「好き」と言ってくれている秀星くんを失うことの方が、きっと辛い。私は、なんてエゴイストなんだろう。それでも私の色相は、今日も相変わらずクリアカラー。色相って、一体何なのかと思う。私はこんなにも、自分が可愛くて仕方ないのに。暗がりにもすっかりと慣れた目を凝らして、秀星くんの背中を見つめてみる。秀星くんは、相変わらず動かない。
「……秀星くん、好き。……私は、自分が可愛いだけの狡い人間だけど……、秀星くんに「好き」って言ってもらえるの……、うれしい……。」
もう、私の口から零れ落ちた直後には、露と消えるぐらいの声で。でも、私の気持ちはまだまだ収まりがつきそうになくて、私はまだ言葉を続ける。
「でも……、最近……、しゅ、秀星くんが……、ね、」
「あんまり、……あんまり、私にさわって……、くれない、から……、……少し、さみしい……の……。」
言った。言ってしまった。秀星くんが起きていれば、絶対に言えないこと間違いない内容。でも、一度口にし始めたら、止められない。
「秀星くん、もう私のこと……、飽きちゃった、のかな……とか……。」
ダメだ。目頭が熱くなってきた。秀星くんが怪我をしたって先生から聞いた時には、ショックを受けただけで涙なんて出なかったのに。自分が秀星くんに構ってもらえなくて寂しいことでは泣くなんて、なんて自分勝手。こんな私、秀星くんから飽きられても、何の文句も言えない。むしろ、まだ「料理」を作ってもらえているだけでも、毎回秀星くんを拝むぐらいには感謝した方がいい。
そうやって自分に言い聞かせてみても、私の中から出てくる言葉は、止(とど)まるところを知らない。
「……、さみしい、……。」