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シャングリラ  【サイコパスR18】

第36章 心


 こんなに良くしてもらっているのに、口にすること自体、間違っている。でも、この気持ちは、そんな正しい理屈じゃ、もうどうにもならないレベルなんだと思う。私はなんて欲深いんだろう。
「ねぇ、前みたいに……、さわって、……、よ。」
 嘘ばっかり。本当は、私は「前以上」にさわって欲しいクセに。あわよくば、「前よりも」気持ちよくしてほしい。「最後」までしてほしい。





――――――私に埋(うず)めて。
――――――私を埋(う)めて。






 でも、いくら秀星くんが眠っているとはいえ、それを口にするだけの度胸なんて、私には無い。当然、嫌われるのが怖い私は、相手に受け入れてもらえるかも分からない状況で、自分から相手に触れるなんてことも出来ない。だから、眠っている秀星くんに、こうして呟くぐらいのことしかできないんだ。でも、秀星くんの体温をもっと直(じか)に感じたことのある私の躰は、じんわりと熱を帯びてきた。私はいよいよ、躰まで身勝手らしい。
「――――ハッ……」
 自嘲気味に、吐息が漏れる。 本当は、自覚していなかっただけで、私はずっと寂しかったのかもしれない。この社会は、秀星くんも私も生きているこの社会は、シビュラっていうシステムが、ずっと見守ってくれている。だから、気付かないでいただけなのかもしれない。

「……秀星くん、に……、さわって……もらえなかった、ら……、さみしい……。」
 でも、これがきっと、私の本音だ。きっと、秀星くん以外じゃ埋(う)められない、私の心。

「……おやすみ……、なさい……。しゅ……せい、くん。」
 いくら小さな声でも、これ以上言えば、秀星くんが目を覚ましてしまうかもしれない。それに、私だって、要らぬことまで口にしてしまうかもしれない。だから、もうやめにしよう。私も、目を閉じて、休もう。きっと、明日の朝だって、秀星くんはまた私に「料理」を振る舞ってくれる。その時は、いつもよりも感謝を込めて、「ありがとう」と口にしよう。




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