第36章 心
「――――っ!!?」
強く腕を引かれて、思いっきり秀星くんに抱きしめられた。
「――――――、ぁ―――――?」
人間、本当に驚いた時は、言葉が出ない。一瞬、頭が真っ白になった。何か、気の利いた言葉はないだろうか――――駄目、何も浮かばない。秀星くんの体を気遣うなら、ここは引き離して帰らないと。でも、ダメだな私。すでに秀星くんの温度が心地よくて、とてもじゃないけど名残惜しくて離せそうにない。いや、違う。でも、狡い私は、秀星くんの腕の力の所為(せい)にして、動かないだけ。
「ねぇ、悠里ちゃん――――――」
秀星くんの声が、熱っぽい。
「悠里、ちゃん――――――」
秀星くんの熱はさらに増して、私まで切なくなる。
「―――――ぇ、ど……し、たの……?」
2度名前を呼ばれたところで、ようやく絞り出した私の声は、震えていた。
「―――――ねぇ……一緒に、……。今夜はさ、一緒に、いてよ……。」
秀星くんの声は、私の声よりも震えていた。抱きしめられているから、秀星くんの表情は全く窺(うかが)えない。でも、私の答えはとっくに決まっている。
「――――――うん……。」
返事をした直後に、今度は秀星くんの寝室まで腕を引かれた。あぁ、私――――――今、ものすごくドキドキしてる。
「座って。」
ベッドに腰掛けるように促された。秀星くんは、室内の明かりを暗めに調整すると、すぐに私をゆっくりと押し倒した。秀星くんの重みを感じる、ただそれだけで、胸がいっぱいになった。
「――――――悠里ちゃん、好き……。」
心地良い重み。秀星くんの言葉は、ただひたすらに熱っぽかった。でも、腕に力を籠めて抱きしめる、ただそれだけ。前みたいにキスをすることすらしない。それ以上に躰に触ってこない。ねぇ、どうして?もう、私のこと、そんなふうには見られなくなったの……?