第36章 心
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変わらない、秀星くんの「料理」。優しい味で、ふんわりとした気分になれる。パスタは絶妙な加減で茹で上がっていたし、それにかかっているパスタソースだって、これ以上ないぐらいにまろやかな味だった。添え物にと出してくれたのは、菜の花らしい。菜の花なんて、造花以外では目にしたことすらない私には、驚きのメニューだった。当然のようにつけてくれたデザートだって、甘さ控えめで食べやすかった。最後に残ったレモンの風味が、さっぱりと舌に残るのがまたお洒落だと思う。
夕食後、秀星くんはシャワーに行ってしまった。私は、特にすることも無いので、ソファーに座って、ぼーっと考え事をしている。
偶然にも、私は明日、オフ。秀星くんは第二当直勤務だから、お互い時間に余裕はある。……まぁ、前みたいに「泊まっていく~?」なんて言われていないわけだから、適当なところで、お開きになるのかな。それはそれで、少し寂しい気もするけど、秀星くんだって退院したばかりなんだから、少しでもゆっくり休んだ方がいい。それに、退院前から、秀星くんは自分から私に触ろうとしないし。食事の時も、会話なんて途切れ途切れ。散発的に、お互いが適当な当たり障りのない話題を振って、それに対してもう一方が返す、といった具合だった。当たり障りのない話題だからこそ、それほど会話が弾むわけでもないし、長くも続かない。秀星くんのことが好きな私は、それだって楽しくないわけじゃない。でも、どこか物足りなさを感じてしまう。