第35章 『猟犬』 Ⅴ
「無理に起き上がる必要は無いわ。そのままでいい。」
「クニっちにしては、優しいじゃん。いつもそれぐらい可愛かったら……ぐはっ!?」
クニっちの鉄拳が、俺の頭にヒットした。
「痛!マジで痛い!暴力反対!怪我人に暴力振るうとか鬼過ぎるって!」
「頭は怪我してないでしょう。ったく……。」
「まぁまぁ、六合塚もその辺にしてやれ。だが、流石若いだけあって、回復が早いな。」
とっつぁんは、俺とクニっちのやり取りを、子どもを見るような目で見ている。それだって、別に嫌じゃないから不思議だ。
「ほらほらクニっち、とっつぁんだってそう言ってんじゃん?」
「縢、アンタ……。」
言いながらも、クニっちはあっさり引いてくれた。
「ところでさ、昨日の事件、アレ結局どういうことだったの?」
俺とコウちゃんは、途中から操作を外れてしまったから、結局分からないことだらけだ。
「まだまだ調査中なんだけど、アンタたちが無茶やらかして分だけ、色々分かったわよ。今朝から、宜野座監視官が物凄い形相で取り調べしたら、ビビりながら全部吐いたわ。流石に、途中で失禁した時は、どうしたものかと思ったけど。」
「ぶっはー!何ソレ!?アイツそんなに根性なかったの!?ぶ、ぎゃはははは!!」
「手塚正志は、前々から公安局に恨みを持っていたらしい。……まぁ、言っちゃ悪いが、アレは単なる逆恨みの類だな。社会から自分たちを爪弾きにしたシビュラが気に喰わない。『潜在犯』は執行対象になるのに『執行官』は執行対象にならないのも気に入らない。そんなシビュラに飼いならされている俺たち『執行官』が、もっと気に喰わないのが、犯行の動機だそうだ。」
「だから、わざわざあたしたち公安局に尻尾を見せて、おびき寄せるような行動を取ってたらしいわ。残念ながら、狡噛とアンタに返り討ちに遭わされたけど。」