第35章 『猟犬』 Ⅴ
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やはりというべきか、俺はそのまま5日間入院する羽目になった。コウちゃんも同じらしい。ただし、部屋は別。俺は、しばらく白い天井をぼーっと見ていたが、すぐに気分が悪くなった。白い部屋というのは、どうにも落ち着かない。嫌でも施設を思い出す。白く狭い部屋に隔離された挙げ句、薬漬けにされ続けた日々。思い出すだけで不愉快だ。
「チッ……」
ベッドから起きようと、身体に力を入れる。しかし、その瞬間に痛みが走った。
「痛ッ……!」
体にうまく力が入らない。俺は諦めて、再びベッドに体重を預けた。幸い、執行官デバイスの操作ぐらいは、問題なくできる。時間を確認すれば、午後6時。昨日から、ほとんどの時間を眠って過ごしているからか、気が付いたらこんな時間になっていた、という感覚。
……ん?メールが入っていたのか。
「……っ……。」
メールの差出人を見て、心臓が跳ねた。何故だか今、この名前を見るのは心苦しい気がした。メールを開封する指が、一瞬躊躇した。
―――――コンコン
絶妙なタイミングで、リズミカルに扉を叩く音。
「縢、起きてる?」
聞き慣れた声。クニっちだ。見舞いにでも来てくれたのだろうか。俺は、ホロ展開させていたメール画面を消して、クニっちに返事をする。
「うん。起きてるよ。」
「入るわよ。」「邪魔するぞ。」
「あ、とっつぁんも来てくれたんだ。へへっ。」
どうやら、仕事終わりにそのまま来てくれたらしい。後ろには、とっつぁんもいた。2人とも仕事着のままだった。2人とも、今更遠慮することもなく、俺の寝ているベッド近くにあった丸椅子に腰かけた。
「具合はどうだ、縢。」
とっつぁんが、俺に視線を寄越しながら口を開いた。俺は、起き上がろうと再び体に力を入れたが、やはり痛かった。
「痛っ……」