第3章 涙
「『健康な市民』?目の前にいる『人間』と、まともに会話もできない私が、ですか?」
本音が、思わず口をついて出た。ヤバい。これじゃあ、切り返しとしては最低の部類だ。最後の方は、自嘲気味になってしまったので、言い方もアウト。
「あのさ、悠里ちゃん。」
かがりさんは、トーンを落として話し始めた。そこにいつもの軽さは無い。
私は当然、俯いたまま。返事もできない。
「悠里ちゃんは知らないかもしれないけど、普通の『健康な市民』はさ、俺らのこと――――『潜在犯』のことなんて――――――ゴミ屑でも見るような目で見てくる。良くて『犬』。『獲物』である『犯罪者』を狩るための『猟犬』。少なくとも『人』として見ようともしない。」
「縢。」
狡噛さんが軽く制するが、かがりさんはそれを無視して続ける。
「それが『健康』な『市民』様なんだよ。おまけに、そいつらのサイコパスはクリアカラーの規定値内。サイコパスって何なんだよ?虫唾が走るよな。」
かがりさんは、苛立ちと諦めと、軽蔑が入り混じったような声で、話し続ける。
「おい縢、その辺にしとけ。」
狡噛さんの2度目の制止。それでもかがりさんは話し続ける。
「でもさ、悠里ちゃんは同じ『潜在犯』でもないのに、俺らのことを『人間』として見ようとしてくれてる。だから、貴重。」
「あ……」
私が顔を上げると、別段笑ってはいなかったが、かがりさんの目元が優しかった。それが、なんでなんだろう。――――嬉しかった。