第34章 『猟犬』 Ⅳ
(あーあ……、俺はもう弾切れじゃん。)
しかし、縢のネイルガンからは、釘が全てなくなってしまった。釘の補充は不可能。ネイルガンはただの鈍器になってしまった。だが、それはそれで使い道があるかもしれないと思った縢は、一応ネイルガンを手放さない。それに、今ネイルガンを手放してしまえば、弾切れを相手に悟られてしまう。犯人の残りは3人。まだ数の上では負けている。わざわざ、自分を的にする必要は無い。
「殺せ、殺せェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」
手塚の絶叫に合わせて、3丁のネイルガンの銃口が、必然的にこちらへ向く。相手も、もう躊躇わずに撃ってくる。犯人たちの形相からみて、もう特攻でもするような心持ちだろう、と縢は推測する。案の定、3丁のネイルガンによる同時一斉射撃。さすがの『猟犬』も、これをすべて回避することは不可能だった。
「――――ッ!」
―――――前へ!
銃口と相手の動きを見ながら、狡噛と縢はギリギリで急所を庇いながら回避する。しかし、狡噛は太腿に2発、肩に3発の釘を貰った。縢も、腰の辺りに2発、脛に1発、オマケに靴にも釘が1本刺さってしまっている。いずれも、致命傷にはならないものだが、出血を伴う怪我だ。それに、いくら慣れているとはいえ、痛いものは痛い。痛みとは厄介で、戦意が減衰する上に、動きが鈍る。
犯人たちの動きが止まった。恐らく、弾切れだ。このネイルガンは、さほど多くの釘をストックすることができないことが幸いした。『猟犬』狡噛慎也と『猟犬』縢秀星が、その隙を見逃すはずがない。狡噛は、痛みをその鋼のような精神力で殺しながら、ネイルガンを構え、そのまま引き金を引いた。無論、そこには一切の躊躇いが無い。
――――――ビュッ、ビュッ、ビュッ
ひたすらに風を切る音。狡噛は、犯人2人に向かって、ネイルガンに残っているすべての釘を射出した。狙った位置は、足。犯人を逃がさないために。犯人は、呻き声を上げながら、その場に倒れた。狡噛は、地面に転がるようにのたうち回る犯人に蹴りを喰らわせ、足の骨を折った。犯人は、痛みの余り失神してしまった。狡噛は、もう1人の犯人にも、同じように蹴りを喰らわせ、同じ末路を辿らせた。
手塚は、その光景を茫然と見ていたが、やがて我に返った。