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シャングリラ  【サイコパスR18】

第34章 『猟犬』 Ⅳ


 犯人たちは、その全員がネイルガンを所持している。本来は『猟犬』に狩られる側の獲物が、今は狩る側に回っている。『猟犬』2匹は、あろうことかその牙を取り上げられ、獲物に追い詰められている。なかなかに倒錯した状況で、尚且つ皮肉な話だ。獰猛な『猟犬』の牙は、機械仕掛けの社会から、電波を通して毎回一時的に与えられているだけなのだから、それも致し方ないことなのかもしれない。それでも、『猟犬』は獲物に喰らい付き、死力を尽くして噛み殺す。

 犯人の1人が、狡噛にネイルガンの銃口を向ける。狡噛は一切怯まない。それどころか、狡噛は冷静に相手の動きを分析しながら、今か今かと反撃のチャンスを窺っている。縢とて、狡噛ほど『猟犬』として現場を駆け抜けてはいないが、いつだって冷静に、ゲームの勝機を掴み続けて今日に至るのだ。こと武力では、狡噛ほどのパワーは無いが、その性能は本物だ。


―――――ビュッ!

 ネイルガンが、狡噛に向かって放たれる。狡噛は相手の動きを読み、紙一重でかわし、そのままネイルガンの引き金を引く。
―――――カチャ、ビュッ!
 無機的なトリガー音。鋭い、風を切る音。まさか回避した後に反撃が来るとは予想していなかったその犯人は、そのまま体勢を崩し、地面に倒れた。狡噛は、念のため3発ほど、ネイルガンで追撃を加える。手塚たちは、一瞬何が起こったか理解できなかったようで、その光景を呆気にとられて見ていた。
「お、おン前ェェェェェ!!」
 手塚は、完全に頭に血が上っている。顔を真っ赤にして、大激怒。このまま憤死しかねない勢いだ。
 手塚の叫びを聞いた犯人たちは、やっと目の前で何が起こったか理解し、一斉に狡噛へ銃口を向けた。その隙を、『猟犬』縢秀星が見逃すはずもない。―――――犯人2人に向けて、ネイルガンをお見舞い。命中を確認した瞬間に、牽制のためにその他取り巻きにも数発ネイルガンを放つ。だが、ネイルガン1発では流石に戦闘不能までは追い込めない。手傷を負いながらもこちらの隙をついてくる可能性もある。縢は、命中した相手2人に、残った釘をすべて射出した。戦意を削いでおくためでもある。2人は低く呻き声を上げ、そのまま地面に倒れた。ネイルガンが狡噛に向け放たれてから、3人を制圧するまでにかかった時間は、僅か30秒ほど。その時間、『猟犬』2匹は無傷のままに、『獲物』を狩ったのだ。
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