第33章 『猟犬』 Ⅲ
「舐めてんのか、公安―――――!!!」
突然、手塚が大声を挙げてキレた。だが、コウちゃんもネイルガンを構えているせいか、手塚は撃ってこない。当たり前と言えば、当たり前かもしれない。ドミネーターは使えなくとも、俺たちにはネイルガンが2丁。手塚が攻撃態勢に入った瞬間、必ず隙ができる。そこで、攻撃を受けていない方が手塚を制圧すれば、それで終わる。負傷するかもしれないが、コイツを取り逃がすことは無い。だが待て。では、先程感じた数人分の視線と『悪意』は、何だったのか?とっくに、物陰から俺たちを襲っているは、もしくは物陰から出てくるとすれば、普通はこのぐらいのタイミングなのだが?
「クソ――――――!俺たちはなァ、お前らみたいな『シビュラの犬』が大嫌いなんだよ!!
ネイルガンの銃口をコウちゃんに向けながら、手塚は大声で叫ぶようにして話し始めた。
「同じ『潜在犯』のクセに、シビュラに尻尾振りやがって!なんで、お前らは同じ『潜在犯』を狩るんだよ!?俺たちは同じ『人間』じゃないのか!!?」
男は、憤怒の形相で叫んでいる。あぁ、そういう事か。俺たち『執行官』は、『潜在犯』でありながら同じ『潜在犯』を狩る。場合によっては、殺す。その上、『執行官』であるというだけで、どれだけ犯罪係数が上昇しようとも、基本的には執行対象にならない。だから、『潜在犯』の中には、俺たち『執行官』を疎ましく思う者も少なくない。
「オイ!!何とか言えよ、この『駄犬』共めッ!!!」
男は、叫びながらヒートアップしている。
「成る程な。『人間』社会に相手にされないなら、『犬』を呼んで八つ当たりか。アンタを『潜在犯』として『社会』からはじき出したシビュラの判断は見事だな。」
コウちゃんは、ニヒルに笑いながら、そう吐き捨てた。皮肉としてはこれ以上ないぐらいで、俺も吹き出しそうになったが、流石にそれは堪え切った。手塚のボルテージが一気に上がっていくのが伝わってくる。恐らく額には青筋のひとつでも浮かんでいることだろう。
「クソ、クソ、クソクソクソクソクソォォォォ!!!!もういい、殺してやる!お前ら!!こいつらは今、ドミネーターのつかえない『駄犬』だ!!!ゴミだ!!!!!お前らを殺した後、この辺りウロついてる公安共全員ブチ殺してやる!!!!!!」