第33章 『猟犬』 Ⅲ
「出て来いよ。手塚正志。」
コウちゃんは、誰もいないはずの倉庫に向かって声を響かせた。
その場を支配する、薄闇、無音。そこからゆらりと、影のように現れたのは、写真で見たツリ目、面長の男だった。細部は見えないが、全身黒っぽい服装。これは、どうやら『アタリ』だ。
「あ、アイツ――――――!」
間違いない。数十メートル離れたここからでも分かる。手塚正志だ。写真で見たよりも、ずっと目付きが悪いが。
『獲物』が目の前に現れたのだ。俺たちのやるべきことはたった1つだけ。シビュラの判定に従い、『獲物』を『狩る』。本来なら、言葉を交わす必要もない。ドミネーターを向けて、引き金を絞る。それだけでいい。言葉を交わす必要などは、どこにもない。全てはシビュラが判定する。しかし、今はドミネーターが使えない。であるのならば、或いは少しの問いかけは、むしろ自然ではないだろうか。質問の内容ならば、幾らでも浮かんでくる。さっきコウちゃんと俺を襲った男2人もアンタの仲間なのか、ドローンを破壊してハリボテにすり替えたのはアンタなのか、ネイルガンを作って犯罪に走った動機と目的は何なのか、ここがオフライン環境になっているのはアンタの仕業なのか、とか。
「手塚正志、だっけ?何でアンタ、『健康な市民』様なんて襲ったのさ?そんなことしちゃ、公安局が動くに決まってんじゃん?」
「……。」
手塚は無言。答えない。ただ、持っているネイルガンの銃口と視線だけを、こちらに向けている。俺も、持っているネイルガンを握りしめる。コウちゃんは、俺の横で堂々とネイルガンを構え直して、犯人と同じようにしてネイルガンの銃口を相手に向けた。これには、流石の俺もビックリした。
「ちょ、コウちゃん!?」