第33章 『猟犬』 Ⅲ
――――――カチャ、ビュッ!
放たれた釘を、姿勢を低くして回避し、そのまま距離を詰める。この距離じゃ、俺はネイルガンの的になるだけだ。全速力で距離を詰めながら、右手で自分の懐から先程拾ったネイルガンを取り出し、電源を入れる。
――――――カチャ、ビュッ!
追撃が来た。釘はギリギリ俺の太腿を掠めた。鋭い痛みが走る。相手はもう、こちらを殺す気満々で間違いない。次はもう、避けきれない。相手の人差し指に力が込められるその瞬間を、見極める。
ギリギリで間合いを詰め、次弾が放たれる直前に、空いている左手で相手のネイルガンを腕ごと薙ぎ払う。よし、貰った。
相手が最後に放った釘は空中に向けて発射され、代わりに俺の右手にあるネイルガンを、相手の身体に向ける。俺はそのまま自分の人差し指に力を込める。
―――――ビュッ、ビュッ
ネイルガンの銃口を密着させて、2連射。
「う、ヴ――――あぁぁァあァ!」
相手が腹を押さえてうずくまろうとしたところに、蹴りを数発。思ったよりあっけなく気絶した。まぁ、ネイルガンも蹴りも、急所は外しておいたから、放っておいても死なないだろう。黒いフードをどけてみる。顔は陽の光など忘れたかのような白だった。顔だけを見れば、女のようにも見える男。
「ハズレ、だね。」
コウちゃんも近くに寄ってきたが、首を振った。どこからどう見ても、明らかに別人。ハズレはこれで2人目だ。
「コウちゃんも、持っとく?」
俺は、自分が弾いたネイルガンを地面から拾い上げ、コウちゃんに渡す。コウちゃんは、俺からネイルガンを受け取り、2発ほど何もない空間へ試し打ちをした。
「そうだな。ここはどうやら、ドミネーターが使えないらしいしな。原因は分からないが、今はそれを探る暇もないらしい。」
「―――――だね。」
今の男を戦闘不能にしても、屋外であるはずのこの空間に充満している、「殺気」。明確な、『悪意』。少なくとも、数人分の視線を感じる。