第33章 『猟犬』 Ⅲ
コウちゃんと共に、薄闇の中を東へと駆ける。そこには、センセーからの情報通り、シャッター付きの倉庫が、10ばかり並んでいた。倉庫1つ1つはそれほど大きくないが、全てシャッターが閉ざされており、時々風に煽られたシャッタが、ガタガタと音を立てていた。「閑散とした」とか、「寂れた」とかいった表現が、しっくりくる景色。それが、俺たちの眼前に広がっている。ここに、手塚正志はいるのだろうか?
――――――ビッ!
「っ!?」
何かが飛んできて、俺の二の腕を掠めた。痛みは無いが、掠った箇所の服は見事に千切れて破れた。
「誰だ!?」
――――――カチャ
――――――ビュッ!
返事の代わりに、風を切る音。もう間違いない。確実にネイルガンだ。それに、今の音で大体の方向が分かった。というか、この薄暗がりの中で撃てば、間違いなく自分の居場所を相手に教えるようなものなのだ。いや、もしかして、それこそが目的なのかもしれないが。コウちゃんも、俺と同じ方向を向いて、ドミネーターを構えている。―――――余計な詮索は後にして、今は『獲物』を仕留めることに集中しよう。俺は、音のした方向にドミネーターを向けた。相手も、俺に気付いたのか、倉庫と倉庫の隙間から、その姿を現した。残念ながら、黒いフードを被っているがために、顔までは確認できないが。それでも、案の定ネイルガンを構えて、こちらにその銃口を向けている。しかし、起動させているはずのドミネーターは、サイマティックスキャンを始めるどころか、無反応。俺の網膜には何の情報表示もされない。
「――――!?」
ドミネーターからの指向性音声に絶句する。
「ちょ、オフライン!?」
オフライン環境下で、ドミネーターは使えない。ジャミングか、電波遮断か。原因はよく分からないが、今はとにかく、目の前の獲物をどう狩るかだ。相手は、こちらに危害を加える気満々だ。ここからでも、数十メートル離れたここからでも、殺意が伝わってくる。