第32章 『猟犬』 Ⅱ
「高確率で別人だ。」
コウちゃんは、デバイスから手塚正志の顔写真を表示させた。
「見ろよ。顔の輪郭からして、全くの別人だ。ちょっとやそっと整形したぐらいじゃ、ここまで変わることは無い。廃棄区画に、そこまで腕の良い整形外科医がいれば、話は別なんだろうが、その可能性は極めて低い。」
思った通り、別人だった。ということは、やはりこの事件、単独犯ではなかったということか?いや、でも今執行した奴が、手塚正志の仲間であるという保証もない。パラライザーでおねんねしているコイツから、情報を聞き出すことも不可能。だが、俺たちは手塚正志を追わなくてはならない。それにしてもコイツ、やけに着ぶくれしてないか?
俺は、上着のボタンを外し、懐に手を入れた。―――――!指が、固いものに触れた。そのまま掴んで引きずり出すと、それは以前に見たネイルガンとよく似ていた。
「コウちゃん、コレ……!」
「ネイルガン、だな。この間の事件で見たものとほぼ同じだ。縢、試しに引き金を引いてみろ。」
俺は、電源を入れて、何もない空間へ向けて引き金を絞った。すると、銃口から釘が勢いよく発射され、数十メートル進んだところで倉庫に当たって地面に落ちた。ネイルガンのウインドウには、赤いランプで「12」と表示されていた。もう一発撃つと、同じように釘が発射され、今度は「11」と表示された。どうやら、このウインドウは、残弾数を表示しているらしい。
「コイツがこれを持ってたってコトは……。」
「手塚と関わりがある可能性が濃厚、ってコトになるな。」
コウちゃんは、口元にうっすらと笑みを乗せていた。そう、この感覚。『獲物』の匂いが、鼻先を掠めるような感覚。あとは、どうやってそれを追いかけるか、だ。
「志恩、この周辺に何がある?身を隠せそうな、使っていない建物や、身を隠せそうな場所はあるか?」
『ちょっと待って。……、えぇ、あるわ。慎也くんたちがいる場所からさらに東へ400メートルほど行くと、今は使われていない倉庫群―――――とまではいかないけど、倉庫が幾らか並んでいる場所あるの。そこなんて、どう?』