第32章 『猟犬』 Ⅱ
コウちゃんが振り向きざまに、ドミネーターを構えた。若干のタイムラグをおいて、発射される神経麻痺ビーム。
しかし、神経麻痺ビームは倉庫に当たっただけのようだった。―――――ドミネーターの引き金を絞れたということは、少なくとも発射時に「銃口の先にに犯罪係数が100以上の者がいた」ということに他ならない。……いるのだ。そこに。犯人かどうかは分からないが、『悪意』のある何者かがいるのだ。俺も、ドミネーターを構え直し、全神経を周囲への警戒へ向ける。自分に備わった機能を、徐々に『狩り』へと最適化させていくような感覚。うん、間違いない。いる。まだそこに、いる。倉庫と倉庫の隙間に、息を殺して身を隠している、誰かが。こういうものは、明確に知覚できるものではない。むしろ、感覚的に「嗅ぎ当てる」という表現の方が、幾らかしっくりくる。――――――『執行官』の異名は『猟犬』。なるほど、やはり自分たちには、この呼び名こそが相応しいかもしれない。すべての感覚・思考をフルに使って『獲物』を嗅ぎ当て、追い込んでは、噛み殺す。猟犬本来の役割は、飼い主である猟師の使う銃の射程距離まで獲物をおびき出すことだそうだが、『シビュラの犬』は『本物』以上だ。何せ、『犬』が『銃』を持っているのだ。『獲物』を見つけ出しては、追い立て、『銃』で仕留める――――――確実に、だ。
コウちゃんは、先程捕捉した奴が隠れている隙間の、裏手に回った。当然、そいつはコウちゃんとは反対側に逃げようとするわけで―――――――
「―――――悪い子だァ……」
「……ぐ―――――ッ!」
俺が撃ったパラライザーは、見事に犯人に命中。そいつは、その場に倒れ伏した。そのまま、犯人の顔を確認する。――――ん?あれ、服装は黒色だが、明らかに顔立ちが違う。
「あれ?なんか、写真と全然違くね?」
近づいてきたコウちゃんに尋ねてみる。