第32章 『猟犬』 Ⅱ
コウちゃんは、道端に転がっていた握りこぶし大の石――――というよりは、固いコンクリートが何らかの原因で壊れて丸みを帯びたという雰囲気だが――――兎に角それを数個手に取ると、適当に角度を変えて前方に連続で投げつけた。モチロン、全力投球だった。ただの石だったそれは、コウちゃんの力によって砲弾となり、物凄いスピードで飛んでいった。
最初の3発は、適当なところで地面に落ちて、ゴロンと力ない音を立てた。しかし、4発目、最後の1発は――――――
――――――――ドシャ!
明らかに、何かに当たった音。……ついでに、何かを破壊したような音がしたのは、きっと気のせいじゃない。音がしたと思った瞬間、突然何もなかったところに、黒いものが出現した。恐らく、今の今までホロを被っていて、視認できなかったのだろう。それが、石をぶつけたことで、ホロ機能が損傷し、見えるようになったのだろう。俺は警戒しつつも、しゃがんで石をどかして機械のようなものを観察する。
「―――――?」
出現したのは、黒い直方体。高さは1メートルあるかないかといったところ。底面部には4つのタイヤが付いていて、そこにモーターと電池、それに何かの装置――――――恐らくはホロ装置と発信装置のみが搭載されているだけだった。たったそれだけの、安っぽい装置。一応、走行時にあまり音がしないように、外側は音や衝撃を吸収するような素材でできていたが、走行時に小石を弾く音までは消しきれなかったらしい。
「舐められたモンだな。志恩、反応はどうだ?」
『さっきまでキャッチしてた信号は、パッタリ途絶えたわ。悔しいけど、わたしは―――――公安局はそのオモチャに遊ばれてたみたいね。』
「この分だと、最低あと4台は、このハリボテにすり替えられてる。恐らく、――――――――そこか!」