第31章 『猟犬』 Ⅰ
「いらっしゃ~い!そこのカッコいいお兄さん、可愛いアクセ、カノジョさんにどう?」
若い薄着姿の女が、こちらに手を振りながら、元気よく呼び込みをしている。露店にはよくある、アクセサリーを売る店。指輪やらブレスレットやら、若い女が好みそうな装飾品を売っていた。
「こんばんは。儲かってる?」
このタイプは、ノリさえ合わせれば、適当に喋ってくれる。
「あはは~。今日はまずまずってトコロかな~?何?お兄さんも何か買っていってくれる?あたし的には、シルバーのリングがオススメ!カノジョさんいるなら、ペアリングなんか、どう?」
「今日は、そうじゃなくってさ。」
「あ!何ならあたしとお揃いでもいいな~。お兄さんカッコいいから、うーんとサービスしちゃう!……。……ねぇ、どう?あたしと、『イイコト』しない?……、ふふ。」
途中から、女の声は艶を帯びて、男を誘うそれになった。それに、大きく胸元の開いた薄着姿。そこからチラチラと覗く下着。別のモノを誘うような瞳に、緩く笑みを浮かべた口元が何とも扇情的だ。でも残念、今は『仕事』中だ。ついでに、一見して快活で健康的な笑顔を見せるこの女が、どうして廃棄区画にいるのか、察しがついてしまった。多分、俺の勘は外しちゃいない。この女はアクセサリーも売るが、こういった手口でカモれそうな男を誘っては、『別のモノ』も売っている。――――この女は売春婦だろう。色相も相応に濁っているのかもしれないが、ひとまずは無視。
「ま、お姉さん可愛いけどさ、今日は急ぐからいいや。それより、コイツ、知らない?」
先ほどと同じく、名前と写真を提示する。一瞬、女は「あっ」とでも言いたげな目をした。――――アタリだ。重要な情報かは分からないが、少なくとも何か知っている。そう、俺の勘がそう告げている。
「どこかで見たの?」
「う~ん、どうだったかな~?」
女は、独特のクスクス笑いで、勿体をつけている。
「俺もさ、今日は急いでんの。協力してくれると嬉しいんだけど。」
さぁ、どう出るか?
女は、その白い手をすっと伸ばして、そのまま俺の左手首を握った。指の柔らかな感触が、俺の手に伝わる。女は、先程の快活さなどすっかり鳴りを潜めて、こちらに妖艶な笑みを向けている。
「お兄さんが『買って』くれるなら……」