第31章 『猟犬』 Ⅰ
まずは、比較的人の多い場所を当たる。ここの通りは比較的露店が多く、必然的に露店商が多い。露店商は、比較的顔が広い人間が多い上に、客とも接する機会が多い。聞き込みを行うにはうってつけの存在だ。いつも必要とする情報を持っているとは言えないが、当たってみるだけの価値はある。まずは、露店で洋服を売っている、恐らく二十代前半の青年に声を掛けてみる。
「ちょっといいかな。聞きたいことがあんだけど。」
できるだけ相手を刺激しないように、さりげなく。しかし、どう見たって洋服を買いに来た客という雰囲気でもない俺に、青年は困惑の表情を浮かべた。
「ねぇ、手塚正志っていう男、知らない?この辺で見なかった?」
偽名で生活している可能性もあれば、住民データに登録されている顔写真とは既に異なっている可能性もあるが、名前と写真の両方を、執行官デバイスでホロ表示させる。
「知らないなぁ……。」
青年は、困ったような顔で無言のまま首を傾げた。この反応はハズレ。本当に何も知らないようだ。軽く礼を言って、次。
ビルとビルの、路地とも言えないような隙間に座り込んでいる老人。身なりの汚さから、どう見たってホームレス。
「爺さん、ちょっと聞きたいんだけど……」
「あ……、あぁ……?」
口を開いた瞬間、濃厚に漂ってきた酒の臭い。どう見たって駄目そうだが、一応声を掛けてみた。結果は、駄目だった……というよりは、会話にすらならなかった。こちらの想像以上に泥酔状態で、意思疎通そのものが無理だった。こんなところで時間を無駄にしてはいられない。早々に切り上げて、次の通りへ移動する。
屋台のおっちゃん、通行人など、適当に目星をつけて聞き込みを続けたが、今のところは収穫無し。そろそろ、コウちゃんに連絡でもしてみるか?コウちゃんなら、何か情報を掴んだ可能性だってある――――そう思った時、声を掛けられた。