第31章 『猟犬』 Ⅰ
俺は右手をホルスターに伸ばしてドミネーターの銃把を握り、そのまま引き抜き女の胸元に突きつけた。
「……ッ!?」
女は焦って、俺の左手を離した。
「……ふぅん。成る程ね。」
女は、悔しそうな瞳を俺に向けてきた。案外、頭の回転が速い女なのかもしれない。
「別に、お姉さんは今日の俺の『お客』でも『相手』でもないから、撃たないよ。その代わり、教えてよ?」
「はぁ……。いいよ、しょうがない。」
女は、観念したようだ。
「この、シビュラの『犬』……。……『犬』のクセに、遊び相手を選ぶなんてね。……まぁ、いいわ。そいつ、30分ほど前に、ここの通りを走って通り抜けて、南へ行ったわ。」
「!」
これは……、「アタリ」だ。ここから南は、倉庫が幾らかあるだけの場所だ。海に面したその場所は、昔は工業地だったらしいが、今はそこに多少の倉庫を残すのみだ。道中に何かあるということもない。今も犯人がそこにいるかは分からないが、何も分からない状況からは、前進だ。
「随分と急いでいたみたいだけど?」
「服装とか覚えてる?」
「全身、黒っぽかったことぐらいしか……。」
ボケた画像だったが、服の色も一致している。恐らく犯人で間違いない。
「ありがと、お姉さん。」
ここから目撃情報のあった現場まで移動しつつ、コウちゃんに連絡して合流だ。
「『犬』にお礼言われても、嬉しくないわ。」
女は、ツンとそっぽを向いた。その『犬』に躰売ろうとしていたのはアンタだろう、なんて買い言葉をぐっと飲み込み、再び意識を周囲への観察と注意に集中させた。
デバイスを起動させ、自分の位置情報を送信。地図機能を呼び出しながら、通信する。
「こちらハウンド・フォー。たった今、犯人はここから南、海に面した倉庫の方向へ移動したとの情報を入手。ここから10分もあれば行けるけど?」
『こちらハウンド・スリー。この先の三差路で一旦合流する。』
『よし。こちらシェパード・ワン。ハウンド・スリーとハウンド・フォーでそのまま捜査を進めろ。すぐに合流はできないが、俺たちもそちらへ向かう。』
『こちら分析室。犯人と鉢合わせ、なーんて可能性だってあるわ。一応念のため、慎也くんとシュウくんの位置情報をもとに、付近のドローンを急行させるわね。』
「さっすがセンセー、助かる!」
情報分析の女神様は、俺たちの身を守る女神さまでもいてくれるらしい。