第31章 『猟犬』 Ⅰ
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ほどなくして護送車の動きは止まり、分厚い扉が開けられた。そこから俺たち『猟犬』が放たれる。さて、本日『ご主人様』に『取ってこい』と命じられた獲物は、手塚正志。複数犯の場合は、それらも一応『取ってこい』の対象だ。どちらにせよ、まずはここ新橋で情報を集めないことには、話が進まない。いくら二係と手分けしている上に一係も2手に分かれるとはいえ、ここは複雑に入り組んだ路地なんかも多い廃棄区画。闇雲に探すには広範囲に過ぎる。それに、こちらの手掛かりだって少なすぎる。分かっていることと言えば、犯人が港区に逃げ込んでおり、まだそこに潜伏している可能性が高いということ、戸籍に登録されている名前は手塚正志、年齢は二十代後半、あとは人相ぐらいのものだ。シビュラの目が少ない廃棄区画で獲物を探すには、それなりの経験と―――――『猟犬』としての勘が必要だ。
「2人になったけど、どうする?コウちゃん。ここはやっぱり、聞き込みから?」
「そうするしか無いだろう。戸籍と住民データぐらいしか、マトモな情報が無い訳だしな。何か有力な情報が手に入ったら、すぐ合流だ。」
「オッケー、コウちゃん!」
コウちゃんとは別の通りへと歩みを進める。
さてと、ここからは単独での聞き込み捜査となる。こんなアナクロな捜査方法だ。すぐに目当ての情報に辿りつけることは極めて少ないが、そこは『猟犬』としての性能の見せ所だ、とも思う。意識をすべて、周辺への観察と注意に集中させる。ここからは、余計な思考は無しだ。余計な思考を巡らせていては、『ここ』で命を落とす可能性だってあるのだから。