第31章 『猟犬』 Ⅰ
「だが監視官、それだけじゃないだろう。」
とっつぁんが、口元にゆったりと余裕を乗せて、口を開いた。
「その街頭スキャナにだって、最低限しか引っかかっちゃいない。しかも、犯行現場は廃棄区画じゃない市街地だ。つまり、ホシは廃棄区画の街頭スキャナの位置だけじゃなく、市街地の街頭スキャナの位置もある程度把握した上で、避けながら逃げたってことにならないか?」
もし、とっつぁんの言うことが正しいとすれば、単独犯と言い切るのは難しいのではないか?コウちゃんの言うように、複数犯の可能性は?例えば……、実際に犯行に及んだ犯人は1人でも、協力者がいるとか?
「街頭スキャナの位置をある程度正確に把握してそれを避けながら逃亡。それだけじゃなくて、もし本当に、何かの手段でその街頭スキャナからの画像送信を妨害しているとすれば、それは単独犯って考える方が無理っすよね。それに、少なくとも逃亡経路をあらかじめ計画しておかないと、ドローンに行く手を阻まれて即アウトっすよ?」
犯行は一見すれば非常に稚拙で偶発的、通り魔的だ。でも、そう考えるのは早計に過ぎる。計画的とは言い難いが、何かしら目的や意図が潜んでいるのではないだろうか?意図や目的があるとすれば、それは何だ?わざわざ人目につく市街地まで行って、ネイルガンを撃って、逃げる。しかも、最低限とはいえ街頭スキャナに情報を残している。これじゃあ、追いかけてきてください、捕まえてくださいと言っているようなものではないか?誰がどう見たって、犯人は尻尾を見せ過ぎている。ここまで尻尾を見せているのだ。被害者を通り魔的に襲うことが目的だと言い切ることの方が無理だ。一体、犯人の目的は――――――いや、ダメだ。それを考えるには、情報が少なすぎる。