第30章 業(ごう)
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「ご協力ありがとうございました、監視官さん。消耗品は、管財課で補充していただけるように手配します。故障したタブレットの予備は、ご希望通り2つ、今日中にお届けしますので、少しの間、お待ちください。では、失礼いたします。」
「ああ、ご苦労様。」
監視官さんに頭を下げて、3係オフィスから退出する。
「……でさー、ギノさんってば、またコウちゃんに、『これは、どういうことだ!?』って言ってさー。あんなの、誰が見たって物取りの犯行だって分かんじゃん?」
「あはは~、宜野座監視官らしいね~。」
「ギノさんらしいって言えばそれまでだけどさ、もうちょっと……」
少し遠くから、話し声が聞こえる。公安局の廊下は、物音がよく反響する。会話も、エコーが掛かったみたいに聞こえて、少し聞き取りづらい。でも、この声は間違いなく秀星くんだ。どこだろ……?キョロキョロと辺りを見回す。3係の出入り口から少し離れた廊下に、秀星くんの後ろ姿を見つけた。その奥にいるのは……確か、3係の可愛い執行官さん。ふんわりとした髪に、ゆるりとした雰囲気。柔らかい笑顔が印象的。離れているからか、会話の内容までは、ハッキリと聞こえない。でも、とても楽しそうな雰囲気。3係の執行官さんは、変わらず柔らかな雰囲気で、優しい笑い声を転がしている。……そう言えば、最近の秀星くんは、あんまり私に楽しそうに話し掛けてくれない気がする。いや、私はそんなに話し上手でもないし、話題が豊富というわけでもない。秀星くんの大好きなゲームのことも、「料理」のことだって、秀星くんと会話できる程に知識があるわけでもない。「料理」のことと言えば、とにかく秀星くんが作ってくれる「料理」に対して、「美味しい」と言うことぐらいしかできない。無料(フリー)のゲーム雑誌を適当にダウンロードしてパラパラとめくってみたが、専門用語がやたらと多くて、適当に読み進めたところで意味が分からなくなってやめてしまった。それに、同じ公安局内で働いているとはいえ、共通の話題が持てるということもない。必然的に、会話がマンネリ化するということだろうか。