第30章 業(ごう)
秀星くんと3係の執行官さんは、楽しそうに肩を揺らして話し続けている。私は、2人のいる方向とは反対方向、管財課のオフィスへと足を進める。
……。
…………別に。
………………別に、嫉妬しているというわけではない。不愉快だなんて思ってない。秀星くんが楽しく過ごしているのなら、それはいいことだと思う。でも、本当に、ここ最近は、私にはあんな楽しそうに話してくれない。私に触れようとしてくれない。触れることがあっても、指で私のおでこをつつくとか、服の汚れを取るとか、それぐらい。私と話していても、どこか気持ちが違うところにあるような感じ。それじゃあ秀星くんの気持ちはどこにあるのかと考えてみても、その答えは全然分からない。喧嘩をしただとか、連絡を取らなくなっただとか、そんなことは全く無いのに。秀星くん……、分からないよ……。でも、尋ねるのが怖い。だって、クリスマスの時には、あんなに私に触ってくれたのに、それ以後は、会ってもあんまり私に触れてくれなくなって。ここ数週間は特にそう。何かあったの?なんてそれとなく尋ねてみても、適当にはぐらかされてしまうような感じ。でも、私のことは変わらず大切に扱ってくれて、料理だって変わらず優しい味。チグハグ過ぎて、分からない。混乱してしまう。
――――――――それに、私は……。私は、やっぱり秀星くんに触ってもらいたいんだ。悪戯な瞳で見つめられて、唇で私に触れてもらいたい。胸だって、秀星くんに優しく擽(くすぐ)られて、ドキドキするような場所に、秀星くんの唇で触れてもらいたい。―――――ううん、それだけじゃない。私だって、秀星くんに触れていたいし、秀星くんが喜んでくれるトコロに触れたい。気持ちいいって、思ってもらいたい。私で、ドキドキしてくれるなら、それ以上に嬉しいことなんてない。それに、秀星くんもそう思ってくれたらいいのに、なんてことまで、思ってしまう。
――――――私、いつの間に、こんなに欲深くなったんだろう?ワガママになったんだろう?
そんな気持ちで胸がいっぱい。そんな気持ちをギリギリで抑え込んで、仕事をこなす。そんな気持ちが溢れてしまわないようにしながら、それでも私は……。……私は赦される限り、秀星くんに逢いに行く。