第29章 残響
「え、ちょっ……!?」
「いいから、いいから、あ~ん!」
何故か秀星くんはノリノリ。何だか恥ずかしいけど、口を開ける。金平糖が一粒、私の口の中に放り込まれて、舌にはほんのりとした甘さが広がった。秀星くんがやったみたいに、しばらく口の中で金平糖を転がしてから、噛み砕いた。
「うん。何か、素朴な味。ありがとう、秀星くん。」
別段、変わった味がするということはないけど、ふんわりと甘かった。天然の砂糖ってこんな味がするのかな。秀星くんは、続けて2粒3粒と、口の中に金平糖を放り込んでいる。その様子は、やはり小動物のようで、どことなく可愛かった。
「ねぇ、……、もしかして、なんだけど。」
「ん?」
咀嚼を止めることなく、秀星くんは視線だけをこちらに向けた。
「どこか、具合、悪いの?」
「ん?何で……、……あ~」
一瞬、意味が分からない、という顔をしたが、秀星くんはすっと横に視線を外した。
「別に?俺はいたって健康だよ。」
嘘をついているようには見えない。まぁ、仮に秀星くんが嘘をついていたとしても、私に見破れる自信なんて無いけど。
「……そっか。」
「どったの?急に。」
「……医務室に、いたから。なんでかな~って。」
「……。」
秀星くんが返事をしないことでできた、少しの沈黙。