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シャングリラ  【サイコパスR18】

第29章 残響


***

 呼び鈴を鳴らせば、秀星くんが笑顔で私を迎えてくれた。
「いらっしゃ~い!さ、上がって上がって!」
「ありがとう、秀星くん。はい、コレ。」
 山田さんから貰った、金平糖の小瓶を渡す。片手に乗るほどの小さな小瓶。山田さんから聞いた話によれば、この金平糖は作るのに2週間以上もの手間暇がかかるらしい。オートサーバーを使えば、数分と経たないうちに食事が出来上がるのにと思うと、本当に不思議。
「何コレ?」
 秀星くんは、小瓶を手に取って、不思議そうな顔をしている。どうやら、私と同じで、金平糖の実物を見るのは初めての様子。秀星くんは小瓶を手に持ったまま歩いて、そのままどさりとソファーに腰掛けた。私も、秀星くんの隣に座るように促された。
「金平糖、っていうお菓子なんだって。」
「ふ~ん?」
 どうやら、名前も知らなかったようだ。
「私も、今日、上司に教えてもらったんだけど、大昔の製法で作られたお菓子なんだって。」
「へ~!」
 興味があるのか、秀星くんは手にした小瓶をじっと見つめたまま、私の話に耳を傾けていた。
「天然のザラメ……っていう、希少な天然のお砂糖を使ってるらしいよ。大昔の製法だからって、丸々2週間以上かけて作られた、超高級品なんだって。作られた場所も、都市部じゃないって。」
「そんなに時間かかんの!?何か、気が遠くなんね。いっこ……食べても、いい?」
 秀星くんは、まさしく興味津々、といった具合に小瓶の蓋を開けて、指先で金平糖を1粒つまんでいる。私が返事をする前に、口の中に放り込んでいた。
「もちろん。秀星くんに持ってきたし。で、どんな味?」
 実は、私もまだ食べてない。食べたことない。
「ん……。結構固い。でも、砂糖でできてる割には、甘さはしつこくない。むしろ、ふんわり甘い感じ。」
 秀星くんは、しばらく口の中で金平糖を転がしてから、ゆっくりと咀嚼した。
「うん。ごちそうさま。悠里ちゃんは、もう食べた?」
「ううん。実は私も、金平糖食べたこと無い……。」
「んじゃ、食べさせてあげるね!」
 そう言うと秀星くんは、小瓶から金平糖を1粒取り出して、私の口元に近づけた。
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