第29章 残響
―――――――ピピピピ!ピピピピ!
私が言いかけた刹那、秀星くんの腕のデバイスから電子音。
「あ、ギノさんだ。遅いからって呼び出しだな、こりゃ。」
『縢!遅いぞ!この間の報告書だってまだ上がっていないぞ!画像は既に貴様に送ってあっただろう!それに、提出期限は昨日だっただろう!一体どういうことだ!兎に角、早急にオフィスに戻れ!分かったな!』
秀星くんが一言もしゃべらないうちに、通信は一方的に途切れた。
「はぁ……、相変わらずうっせぇな、ガミガミメガネ。ってなワケで、『飼い主』様がお呼びらしいし?俺はオフィスに戻るよ……。んじゃ、また連絡するね、悠里ちゃん!」
秀星くんは、人懐っこい笑顔で、私にひらりと手を振って、医務室からダッシュで出ていった。
「あ……」
結局、秀星くんが何の仕事なのかも分からないままだな……。まぁ、秀星くんも仕事なんだし、私は私の仕事をしないと。
そこからは、先生と機材や施設面について話をしながら、予定通りにモニターの設置工事を終えた。動作チェックも完了して、今日の仕事は終了。相変わらず、いつもの仕事は、先生がほとんどやってくれてたけど。
「刑事課って大変ですね。医務室でもお仕事しないといけないんですね~。」
「え?刑事課が医務室で~……?」
一瞬、先生は何のことか分からない、という感じの顔をした。でも、すぐにいつも通りの顔に戻った。そして、「まぁ、ここは分析室とも繋がってるからね」と付け足した。
僅かな違和感。医務室、秀星くんの仕事、医者の唐之杜先生と二人……。
……、もしかして。
秀星くんが『仕事』で怪我や病気をしたとしたら、辻褄が合ってしまう。もしくは、秀星くんのサイコ=パスに何かあったとか。
「ねぇ、先生。もしかして秀星くんに、何か……?」
「……。」
先生は答えない。
「先生……?」
「まぁ、わたしよりも、シュウくんに直接ききなさいな。」
「……、はい。」
……やっぱり、なのか。これは。何かあったのか。まだ秀星くんに何かあったと決まったわけじゃないけど、分からないからこそ胸が苦しい。
「ありがとうございました。連絡してみます。」
私はぺこりと頭を下げて、ひとまずは管財課オフィスへ戻った。