第28章 『執行官』 Ⅱ
『執行モード・リーサル・エリミネーター・慎重に照準を定め・対象を排除してください』
網膜表示に映った犯罪係数表示は、実に469。300なんていう境界線を余裕でオーバー。そればかりか、ギノさんの情報にも無かった7人目。本当に、コイツはいったい何者なんだ?そんな疑問が即座に浮かんだが、俺の『仕事』は、この状況から犯人の素性を推理することじゃない。シビュラの判定通りに、『獲物』を『狩る』ことだ。別に、コイツが何者であっても、俺には一切関係無い。
「――――――ぐ……!?」
殺人銃へと変形したドミネーターの引き金を引き絞れば、そいつも一瞬の間に爆散した。ただ、俺が引き金を引く寸前に、犯人も銃の引き金を引いたらしく、俺は脇腹にもう1発、貰ってしまったが。それでも、俺の感じた違和感とは裏腹な、ごくあっさりとした幕引き。後には、血だまりと妙な獲物だけがその場に残された。
「っ、ってぇ……!ンだよ、コレ……!?」
攻撃を受けた箇所が痛む。
「釘……!?」
二の腕に刺さっていたそれを指でつまみ、僅かな明かりで確認すると、それは釘だった。5センチほどの釘が、上着を貫通して、俺の皮膚に突き刺さっていたのだ。オイオイ、何だコレ?釘を打ち出す銃?まさかとは思うが、釘に変なクスリでも塗られてないだろうな?
「大丈夫か、縢!?」
とっつぁんが、ドローンから応急処置セットを取り出して、怪我の手当てをしてくれた。そうこうしているうちに、コウちゃんやクニっち、ギノさんも現場へやってきた。
ギノさんは、犯人の数が多かったことに腑に落ちない様子だった。コウちゃんは、俺の怪我が命に別状のないものだと分かると、釘を打ち出す銃を手に取って、何やら険しい顔をしていた。銃をドローンに引き渡す前に、何やら記録していたようだった。そうこうしているうちに、人質の女はパニック状態に陥り、奇声をあげ始めた。クニっちは、ギノさんに何やら言われて、人質の女にドミネーターを向けていた。犯罪係数は案の定100を超えていたらしく、パラライザーを撃たれ、そのままドローンがどこかへ移送していた。多分あの様子じゃあ、『潜在犯』の仲間入りだな。俺は当然、すぐに医務室送りとなった。