第28章 『執行官』 Ⅱ
俺ととっつぁんは、言われた通りにドミネーターを床に置き、床の上を滑らせ、犯人に渡す。
「そ、そうだ……、それでいいんだ……!」
犯人は、ドミネーターを拾うために、女性の近くを離れた。床の上を四つ這いになりながら、ドミネーターまで移動した。……よし。
座った姿勢のまま、犯人は俺にドミネーターを向けてきた。
「これで終わりだ、公安!―――――っは、ははははははははは!」
当然、ドミネーターはユーザー認証されない犯人には扱えない。トリガーはロックされて、ただの鈍器だ。
「あぁ?どうなってんだ、コレ!?く、クソ!使えねぇ!?」
さらに狼狽する犯人を軽く鼻で笑い、その顔面にキックをお見舞い。
「ぐ!?ぐああぁぁぁぁぁ!」
弱い犬ほどよく吠える、ってね。あ、『犬』は俺の方か?まぁ、細かいことはいい。あとは、蹴られた鼻を押さえながら床に転がって悶える犯人に、更に蹴りを加えてやる。その隙にドミネーターを奪い返し、銃口を向ける。
『犯罪係数・オーバー300・執行対象です』
犯罪係数は、ギリギリで300を超えていた。まぁ、ギリギリ300を超えていようが、余裕で300を超えていようが、結果は同じことなのだが。
『執行モード・リーサル・エリミネーター・慎重に照準を定め・対象を排除してください』
既に、ドミネーターは自動変形を完了さていた。俺は無言で引き金を絞る。ドミネーターから放出された集中電磁波により、犯人は肉体を沸騰させられ、跡形もなく消えた。そこに、血だまりと所持していたナイフだけを残して。
さて、あとは人質の確保だ。俺は、人質の女に近づきながら、声を掛ける。女は、わずか数分の間に起こったドミネーターでの執行劇を見て、ただ茫然としていた。その場から動くこともなく、というか恐らくはもう動けずに、上体を起こして座り込んでいる。
「アンタ、大丈―――――」