第28章 『執行官』 Ⅱ
とっつぁんと俺は別々に、少し離れた柱の陰に隠れる。
「――――――っく、ひゃ――――、やめ―――――――」
女の声。微かだが、確かに聞こえる。行為の最中の喘ぎ声にも似た、声。資料にあった人質で、間違いないだろう。
「この奥、だな―――――?」
とっつぁんは、ドミネーターを構え直し、声のする方向を――――――闇を睨んだ。
「そうみたいっスね。」
俺も、柱の陰に隠れながら、ドミネーターの起動を確認する。もうすっかり馴染んだ指向性音声が聞こえて、網膜には情報表示。さて、どう出るか?
「取り敢えず、進みます?このままじゃ、埒が明かないっスもん。」
「まぁ、そうするしか無さそうだな。」
目でお互いにタイミングを計りながら、柱の陰から柱の陰へ、移動する。闇の中を、音もなく。
適当に前進したところで、さっきの女の声が、かなり近くなってきた。どうやら、この先で間違いない。
「も、もう―――――ゆる……して――――」
消え入りそうな女の声。なるほど、随分と弱っている。これでは人質は相当嬲(なぶ)られているに違いない。
「おい、次は俺にも輪姦(まわ)せよ――――!」
「ハァ……ハァ……」
追って、男の興奮した声。どうやら、お姫様の貞操はピンチのようだ。もう、奪われてしまっている可能性も高いが。まぁ、この状況で生きているだけ、ある意味凄いともいえる。ただ、恐らくは被害者のお姫様も、これで犯罪係数が上がって、潜在犯の仲間入りだろう。こういう事件に巻き込まれた『健康な市民』は大抵の場合、精神面に大きな傷を受け、色相が濁り、完全に元には戻らない。被害者が加害者の仲間入りをするなんて、どんな世の中なんだか。笑うに笑えない。
声のする方向へ移動しながら、戦闘態勢を取る。
――――――――見えた。
柱の陰から、様子を窺う。男が3人、被害者と思われる女に群がっている。女は、恐らく全裸に近い。ちらりと見えた腕や首筋に怪我をしている。恐らく、犯人たちに付けられた傷だ。女は、まだ意識があるらしく、小さく悲鳴を上げ続けている。ここからではよく見えないが、男は下半身を露出させている。まぁ、お楽しみの真っ最中といったところか。その横では、小太りの男が1人、刃渡り15センチほどのナイフを持って、見当違いな方向を睨みながら突っ立っている。どうやら、あれで見張りをしているつもりらしい。