第28章 『執行官』 Ⅱ
「こちらハウンド3。ノースフロア4階非常階段付近。たった今、ナイフで武装していた小田順平と木下正二をパラライザーで執行した。処理はドローンに任せて、残りを探す。」
短い通信が切れる。コウちゃんは早くも、2人撃ったらしい。こちらも、ぼんやりしてはいられない。犯人は、あと4人いるのだから。
それにしても、このビルは大きい。建物自体は6階までしかないのだが、元々ショッピングモールとして建てられたものらしく、無駄に広い。そのクセに、太めの柱や死角になる場所があったりして、見通しは決して良くない。だから、薄暗がりの中、神経を研ぎ澄ませる。常に警戒しながら、6階のサウスフロアをとっつぁんと進む。このフロアの果てまで、くまなく探索したが、何もない。とっつぁんが、このフロアには犯人も手掛かりも見つからなかった旨を、デバイスで通信している。
「おい、縢。」
とっつぁんが、何かに気付いたらしい。
「何スか?」
とっつぁんが指差す先を見ると、ほんの僅かではあるが真新しい血痕。それは、停止しているエスカレーターへと続いていた。
「なるほどねぇ~……。」
人質は怪我をしていたというのだから、人質を適当にいたぶって、連れて行きでもしたのだろう。血は、少量にもかかわらず、まだ乾ききっていなかった。ということは……。
「近いっスね。」
俺の口角は、自然に吊り上がる。俺も『猟犬』の端くれといったところだろうか。
「油断するな。」
「分かってますって。」
軽口を叩きつつも、忠告は無駄にしない。相手は、4人も残っている。運が悪ければ、一斉にかかってくる可能性だってあるのだ。
必要以上に物音を立てぬよう、移動する。
―――――――どうやら、ここが「アタリ」らしい。