第28章 『執行官』 Ⅱ
「このビルに逃げ込んだことは、既に判明している。犯人は6名、人質は1名だ!」
ギノさんがデバイスを操作しながら、叫ぶ。
「狡噛は、北側……裏手へ回れ。」
「ああ。」
「六合塚はドローンを引き連れて、狡噛の援護だ。」
「了解。」
コウちゃんとクニっちは非常階段を駆け上がった。コウちゃんとクニっちが裏手から入った瞬間、その出入り口は、ドローンによって完全封鎖された。
「縢と征陸は、南側の最上階から犯人を探し出し、見つけ次第ドミネーターで撃て。」
「はいよ。」「りょーかい!」
「俺はビルの1階で待機だ。お前らが犯人を逃した場合は、ここで確実に仕留める。」
要は、この廃ビルの中で、犯人たちとかくれんぼというワケだ。この場合、オニは公安局ということになるのだから、なかなか皮肉がきいていると言えるかもしれない。
廃棄区画に、潜在犯が逃げ込んだとの通報を受けて、現場へ狩り出された。今回は、なかなか武闘派な犯人たちが、景気よくやらかしてくれたらしい。資料によれば、今日の夕方頃に犯人と思しき男どもが、市街地の外れで、女性に殴りかかり、持っていた貴重品を強奪。そのまま女性を人質に取りながら、この廃棄区画内のビルへ逃げ込んだらしい。目撃情報によれば、女性はあられもない姿になっていたとのことだ。犯人の中には刃物を持つ者もいたらしい。だが、間抜けなことに、犯人のうち半分はシビュラの目――――――街頭スキャナをよけきれなかったらしく、顔も年齢も割れてしまっている。
傷害、窃盗に婦女暴行、銃刀法違反……、彼らの犯罪係数は如何ほどのものだろうか。まぁ、考えても分かるものでもなし、俺は『執行官』として、『猟犬』として、獲物を追うだけだ。それに、俺らの仕事は、ただ獲物に『ドミネーターを向ける』ことだ。シビュラに従って言われた通りに、引き金を引き絞る、それだけ。
それにしても、完全にシロウトの犯罪といった感じ。犯罪に計画性が見当たらない。因みに、被害者の女性はごく普通の市民とのことだ。
さぁ、余計なことを思考している暇は無い。こうしている間にも、コウちゃんとクニっちなら、犯人を見つけているかもしれない。とっつぁんも俺も、非常階段から南側の最上階を目指す。勿論、犯人に見つからないよう、そして手掛かりを見落とさぬよう、細心の注意を払いながら。