第3章 涙
「狡噛執行官、こちら管財課の月島くんだ。監視官立ち合いの下、どうしてこうなったか説明してもらおうか!」
トレーニングルームに着くや否や、宜野座監視官はその鋭い眼差しで「こうがみ執行官」がいるであろう方向を睨み付けた。横顔しか見えなくてもすごい迫力。これに正面から睨まれた日には、普通の人間はまず動けないだろうな。さて、「執行官」ということは、宜野座監視官の部下で、かがりさんの同僚、ということになるのかな。「こうがみ執行官」って、どんな人なんだろう。私も、宜野座監視官の視線の先へ、目をやる。
「ちょ、あ、……!?」
あろうことか、こうがみ執行官の上半身は裸。自分の顔に、体温が一気に集まってくるのを感じた。多分、見た目にも顔が赤くなっていることだろう。でも、それを止める術なんて持ち合わせていない。
「ん?あぁ、悪い。」
こうがみ執行官さんは、物事を察する能力をお持ちなのだろう……。私の様子がおかしいことに気づいたのか、その辺りに放置されていたTシャツに、さっと腕を通した。
「ぷ、くくく……」
かがりさんにも気付かれてしまったらしい。口元に手をやって、笑いを堪えているかがりさんが目に入った。何が面白いんだろう……。
「はじめまして、えっと、こうがみ執行官、さん?改めまして、管財課の月島悠里と申します。以後、お見知りおきください。」
私は赤くなった顔を見られないようにするためにも、深めに礼をした。
「あぁ、刑事課一係、執行官の狡噛だ。それと別に、狡噛で構わない。よろしく頼む。」
ものの言い方は不愛想だけど、さっきのこともあるし、きっと悪い人じゃないはず。そう思った。
「挨拶はその位だ。狡噛、貴様は早く、この惨状の原因を説明しろ。お前と違って、俺は忙しい。」
宜野座監視官は明らかに不機嫌オーラを出していて、正直私はこの空間に居づらいぐらいだった。
「うっは~……コウちゃん、今回はまた派手にヤっちゃったね~!さっすが~!」
かがりさんは別段驚くこともなく、軽口をたたいていた。しかもなんか嬉しそう。あぁ、初めて会ったときに「コウちゃん」って言ってたのは、この人のことだったんだな。何となく気になっていたことがひとつ、解消された。