第3章 涙
「ハイハイ、あー、スマン、やり過ぎた。」
こうがみさんの視線を辿ると、トレーニングルームの奥に、粉砕された見るも無残な姿になった訓練用ドローンと、壁のクレーター状の窪みが目に入った。
「わ、わぁ……」
正直、リアクションに困った。訓練用のドローンは、高価なものであるとかそれ以前に、耐用年数内においてそうそう壊れるものではない。しかも、トレーニングルームの壁だって、オフィスの壁とは材質からして違う。そこにクレーター状の跡を残すなんて、一体どんな道具を使って訓練しているのか。刑事課の武装を使った特殊訓練だろうか。
「いつも通り、この訓練用ドローンの設定を最大にして、格闘訓練をしていたんだ。そうしたら、このドローンが投げ技を仕掛けてきてな。このままだと投げ飛ばされると思って、咄嗟にドローンを俺から引き剥がし、逆に投げてやったら、こうなったんだ。」
本当に眩暈がした。格闘に特化した専用AIが搭載された最高ランクのドローンを、生身の人間が完全破壊したらしい。一応、辛うじて残っていたドローンの使用履歴を調べてみても、『最終使用者:刑事課一係執行官 狡噛慎也』となっていた。どうやら本当らしい。
「狡噛、お前の備品破壊でどれだけ金がかかると思ってるんだ。普段からあれほど気をつけろと言っているだろう。程々という言葉を知らんのか。」
今まで黙っていた宜野座監視官が口を開いた。相変わらず、宜野座監視官はイラついている。忙しいというのは、本当なのだろう。
「程々にしていたら、訓練にならんだろう。」
「そぉっスよ!ギノさんだって、いつも『中途半端は良くない』『やるなら徹底的にやれ』って言ってるじゃないっスか!」
宜野座監視官の出すオーラを物ともせず、狡噛さんとかがりさんは、冷静に突っ込んでいる。私なら絶対に何も言えないこの場面で。
「く……、お前らな……。」
どうやら、狡噛さんとかがりさんの突っ込みは的を射ていたらしい。宜野座監視官さんは、それ以上言葉を返すことはせず、監視官としての立ち合い義務を果たしたからオフィスに戻るとのことだった。私も、業務が終わり次第、管財課に戻っていいと言ってくれた。