第25章 クリスマス・イヴの憂鬱
閉まる出入り口。秀星くんは嬉しそうに私の手を取って、膝をついてその場に跪(ひざまず)いた。
「な、何……?」
「ようこそ、お姫様。」
秀星くんはそう言うと、私の右手の甲に、触れるだけのキスを落とした。不覚にもときめいてしまった私は、もうただの馬鹿かもしれない。
「……って、ここはお城どころか、『潜在犯』の『牢獄』だったね。ま、ロマンスの欠片も無いけど、楽しんでってよ。」
離れる手と手。秀星くんは立ち上がって、背中を向けた。
「……っ」
胸が痛む。秀星くんからすれば軽い冗談。でも、弱い私は笑えない。ねぇ、お願い。そんなこと言わないで。だから私は、せめて思うことを口に出そう。
「ううん。私にとって、秀星くんは大好きな人で、ここはそんな秀星くんの部屋。」
私は、離れた手をもう一度秀星くんに伸ばした。秀星くんの右手の温度が、私の右手に伝わってきて、安心する。秀星くんは振り向いてくれなかったけど、この手の温度が何よりも優しくて、嬉しかった。
秀星くん、大好き。
私の気持ちが、少しでも秀星くんに届けばいいと思う。でも、もし伝わらなくても、こうして何度でも伝えるのも、秀星くんになら悪くないのかな、なんて思う私もいたりして。
自分でも変だと思うけど、秀星くんが相手なら、いいような気もする。