第3章 涙
「月島さんは、ここに来たばかりで、詳しいことは知らないかもしれないけど、ここ公安局に、刑事課組織があることは知っているね?」
「はい、勿論です。」
「刑事課は公安局の中でも、かなり特殊なセクションでね。他の組織に比べて、その設備投資や運営資金にかなりの予算・費用を必要としているんだよ。だから、使用する備品や支給品、貸与品なども、ほかの課とは違って、個人や用途に合わせて細かくカスタマイズされたものが必要とされることが極めて多い。そして、そのひとつひとつが高価なものになっていてね。」
「えーっと……」
イマイチ話が見えてこない。ふだんの山田さんなら、もっと分かりやすく話をしてくれるのに。
「しかも、刑事課で働くのは、監視官だけでなく執行官も多くいる。というか、現状明らかに監視官の数が足りてない。執行官の方が多数を占めていて、少ない監視官が何とか多くの執行官を管理している状態だよ。本来なら、それらの備品や支給品も、監視官が全てを把握して管財課に報告するんだけど、最近の刑事課の人手不足は深刻みたいでね……。その把握を、我々管財課が一部担当することになったんだよ……」
山田さんは、ここでふーっと長い溜息をついた。
「……?えっと?」
「監視官ならともかく、執行官とも関わらないと進められないような仕事、嫌厭する職員が多くてね……。正直、この話を会議でしたとき、明らかに嫌そうな顔をした職員もいたんだよ……。」
山田さんは、机に肘をついて頭を右手で支えて、もう一度溜息をついた。この話をしている山田さんの色相は如何ほどの色なのか、ふとそんなことが気になるほど、山田さんの周りの空気は重かった。