第3章 涙
お昼休憩が終わって、午前の仕事の続きに取り掛かろうとしたとき、上司の山田さんに声を掛けられた。
「月島さん、今、ちょっとだけいいかな……?」
いつもニコニコしている山田さんが、珍しくの眉間にしわを寄せて、明らかに困っている様子。
「はい、何でしょう?」
とりあえず、山田さんに向き直って、話を聞いてみる。
「頼みたいことがあるんだけど……」
山田さんは、私の目を見ずに、やや視線を下方向に逸らしていた。何だろう。まさか、もう雇用契約を切られてしまうとか!?このご時世に珍しく、無職になってしまうとか!?
「いや、ここでは話しにくいから、ちょっと、隣の小会議室まで来てもらえるかな……?」
怖い怖い怖い!確かに私は仕事も遅いし、慣れないことばかりで戸惑ってるけど、そんなに勤務態度は悪くないはず、悪くないはず!内心ビクビクしながらもついていくしか、私には選択肢が無い。山田さんは、画像表示用のデバイスと外部メモリーを持って、小会議室に入っていった。私は背中に冷や汗をかきながら、小会議室へ入った。私が部屋に入ると、児童扉が無機質な音を立てて閉まった。山田さんは部屋の奥側に腰掛け、私は促されるがままにその向かいに腰掛けた。
「わざわざ悪いね、こんなところまで来てもらって。突然でびっくりしただろう。」
山田さんはそう言いながら、手元のデバイスを無駄のない動きで操作している。口調は穏やかだが、何か言いにくそうにしている。
「いえいえ、とんでもないです。それで、私などに頼みたいこととは、何でしょう?」
これ以上、冷や汗をかきたくない。悪い話なら、早く聞いて、何とかできることならばしてしまいたい。
「う~ん、それがね……。」
山田さんは、やっと重い口を開いてくれた。私は、背筋を伸ばして、椅子に座りなおした。