第23章 ゲーム・パニック Ⅱ
「縢のヤツ……、俺がどんな気でいるかも知らねェで……!」
狡噛さんは、そう短く呟くと、自らの衝動を紛らわすかのように、トレーニングで汗を流す。壮健な身体がヘトヘトになるまで、自虐的なまでのトレーニングを自らに課すが、それでも何かが心の隙間で燻(くすぶ)っていて、収まりそうにもない。シャワーを浴びて汗を洗い流し、倦怠感たっぷりの身体をソファーに横たえるが、何かが足りないような、そんな焦燥感でいっぱいになるのだ。
身体は疲労しているのに、脳内は何かが動き回るような心地がして、冴えて眠れない。少なくとも、自らの脳内を這いまわるモノの正体が明らかになるまでは。
普段は、とても勘のいい狡噛さんなのに、こういうことに関しては鈍かったりしたら、それは、……なんかこう……、可愛い気がする!
しばらく逡巡した後に、狡噛さんはやっとその正体に辿りつく。狡噛さんの脳裏に浮かんだのは、瞳にいたずらな光を湛えた、秀星くんだった。
『コウちゃん、案外鈍いんだね?』
振り向きざまに秀星くんがそんなことを言い放つ、そんな浅い夢をみる狡噛さん。夢の中の秀星くんに背中を押されるようにして、狡噛さんは夜中にもかかわらず目を覚ましたのだ。
「縢が欲しい」―――――そう自覚してしまえば、あとは早い。狡噛さんは、深夜にもかかわらず、自分の部屋を飛び出し、秀星くんの部屋の前に立った。狡噛さんは、迷わずにインターホンを押す。
ややあってから、秀星くんが眠い目を擦りながら、出入り口のドアを開ける。
「どったの、コウちゃん?何か忘れ物?俺、寝てたんだけど――――――ふぁ……。」
普段の逆立てた髪とは違い、するりと下りた従順な髪。警戒心の欠片もない無防備な仕草。それらは狡噛さんの庇護欲と加虐心を煽るには、充分すぎる材料だった。
「あぁ、忘れ物――――――だ。」
狡噛さんは、勝手知ったる秀星くんの部屋を、ズンズンと進んでいく。
「ふぁ……、ちょ、コウちゃん……、そっちは俺のベッドだって……。そんなとこに何忘れたっての……?」
男性にしては白い足の甲に、爪先(つまさき)。美しく揃ったそれは、少女のようですらあった。秀星くんの全てが、今の狡噛さんを煽っているなどと、秀星くんは知る由もない。逆に、知ってしまっていれば、その魅力は失われてしまうのだから、狡噛さんとしてもわざわざ指摘することは、無い。