第16章 官能クライシス Ⅱ
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目が覚めた。ぼーっとした意識。真っ暗で、朝が来たのかどうかもわからない。だけど、私を包む体温、優しい匂い、規則的な鼓動と寝息、背中に回された腕。秀星くんだ。昨夜のことを思い出す。ちょっとえっちなことをして、ドキドキして、あとは秀星くんに優しくしてもらって、今もこうして私は秀星くんの腕の中にいる。でも、きっと秀星くんは泣いていた。どうしてかは分からないけど、泣いていた。きっと、私にはまだまだ知らないことや分からないことがあるのだと思う。まだぼんやりとした頭で思考を巡らせていると、秀星くんの体がもぞもぞと動いた。
「ん……、はよ。」
少し掠れた声。抱きしめられたまま、後頭部を撫でられて、くすぐったい気分になる。
「悠里ちゃん、ちゃんと寝れた?」
ふあ、と欠伸をしながら尋ねられた。朝なのだろうか。
「ぁ……。」
「朝だよ。……って、この部屋、窓無いから、わかんねぇよな。」
「……、朝?」
「そ。7時だよ。朝飯にする?」
秀星くんは、私から体を離して、上半身を起こした。部屋の電気が点けられて、私も体を起こして、秀星くんの顔を見る。でも、いつも通りの秀星くんだった。
「どったのよ?俺の顔に、何か付いてる?」
秀星くんは、軽く笑ってベッドから立ち上がった。
「ううん。何も。おはよう、秀星くん。」
つられて、私も頬を緩ませた。秀星くんにこうやって「おはよう」って言えるのが、嬉しい。
「んじゃ、何か作ってくるから、悠里ちゃんはもうちょっとしてから、キッチン来て。あ、何ならここで昨日のこと思い出しててもいいからさ。」
秀星くんは、からかうように笑った。
「もう!秀星くんっ!!」
それはもうしました、なんて言えるわけもないので、代わりに抗議。秀星くんは、からからと笑いながら、キッチンへと消えていった。
「……、もう……。」