第16章 官能クライシス Ⅱ
どれぐらい時間が経ったか分からないけど、多分それなりに経ったと思う。秀星くんはあれからほとんど動かないし、私も動かなかった。秀星くんの体温と、抱かれている安心感が心地よくて。なんとなく意識がぼんやりとして、眠ってしまう寸前だった。このまま、秀星くんに抱かれながら眠って、朝起きたら秀星くんの顔があったら、それってもう、最高に幸せなんだろうな、なんて、ふわふわとした頭で考えていた。
「……っく、……」
突然、秀星くんの体が小刻みに震えたかと思うと、押し殺したような声が聞こえた。
頭がふわふわしていたからか、驚いたからかは分からないけど、私は突然のことで声が出せなかった。――――どうしたの、秀星くん。
声には出せなかったけど、心の中で尋ねてみた。
「……、悠里ちゃん……」
私の名前?
「……、っく、……、ぅ……」
私を抱きしめる腕に力が篭る。
――――もしかして、泣いてるの?
「……、っは、……、っ……」
――――秀星くん、泣いてる。どうして?
「……、しゅ……せー……、くん……?」
ぼんやりとした意識の中、名前を呼ぶ。
「……、起きてた……いや、起こした?」
秀星くんの声は微かに震えてて、ほんの少し、鼻声だった。やっぱり、泣いていたんだ。
「どう、したの?秀星くん。」
今度は声に出して、尋ねてみた。
「ん……。別に……。」
秀星くんは、いつものように、軽く返事をしてくれた
――――嘘だ。そう直感した。でも私は、何も言えずに秀星くんの胸に顔を埋めた。
「悠里ちゃん――――、ごめん。……おやすみ。」
秀星くんは、こんな私の好意を受け入れてくれて、大切にさわってくれて、こんなにも気持ちよくしてくれて、私を優しく抱きしめてくれて。でも、まだ、どこか遠くて。切ない、な。
それでも、私の意識は次第に微睡んで、そのまま夢の世界へと落ちていった。