第2章 迷い蝶
「え、ちょっ、」
「縢!貴様監視官に向かって良い度胸だな!少しは貴様らの飼い主である監視官に対して従順な態度を取ったらどうだ!?」
「ひゃ~!ギノさん、女の子が怖がっちゃいますって!」
かがりさんは、茶化しの態度を崩さない。むしろ、この状況を楽しんでいるかのようですらある。この2人の性格は普段から対照的なんだろうな、なんて思った。
「元はと言えば、貴様が監視官に対し取るべき態度を間違うからだろう。」
冷静さを取り戻したのか、再びバッサリと切り捨てるような物言いに戻った。
「ハイハイ、んじゃ、さっきは道に迷ってたみたいだし?俺は用が済んだ悠里ちゃんを、途中までお送りしてきま~っす!」
あ、それは少し有り難い。刑事課のフロアを抜けるところまで送ってもらえれば、もう迷わずに済む。
「お前は馬鹿か。監視官でもない人間と不必要に接触して、彼女の色相が濁ったら、お前はどう責任を取るんだ?執行官とは即ち『潜在犯』。サイコハザードの原因になりうるということは、訓練プログラムでも教わっているだろう。公安局の中であるとはいえ、もっと自分の立場というものを自覚しろ。」
今度は刺すような物言い。……何もそんな言い方しなくても、そんな言葉が頭をよぎったばかりか、喉まで出かかったが、ぐっと堪えて言葉を飲み込んだ。言われた張本人のかがりさんは、両手を頭の後ろで組んで、「へいへ~い」と口を尖らせた。何だろう、その姿が妙に可愛らしく見えた。自分の堪えた言葉と、かがりさんの反応にギャップがあり過ぎて、思わず苦笑してしまった。こんな経験は初めてだ。
「ちぇ~。ま、そんなことだから、オフィスのドアまでだな。」
監視官さんは、「フン」と鼻を鳴らし、自分のデスクに戻っていった。よく分からないけれど、忙しそうだった。かがりさんは、私に退出を促して、オフィスの外に数歩出た。そして、オフィスのドアを後ろ手で閉めた。