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シャングリラ  【サイコパスR18】

第2章 迷い蝶


***

「ギノさ~んっ!」
 オフィスに入るのと同時に、かがりさんは声を上げる。ちょっと待て。仕事中じゃないのだろうか。奥では、ポニーテールの女性がタブレットを叩いて、モニターで文書作成をしているようだった。
「縢!休憩が長すぎるぞ!そもそもお前は、休憩するだけ働いていないだろう!報告書だけでは足りないのか、そうか、反省文を……、ん、こちらは?」
 眼鏡の男性は、ここまで話してやっとこちらに気づいたらしい。
「コチラ、管財課の……」
「月島くんか。管財課から連絡を受けている。荷物を引き取ろう。」
 かがりさんが話し始めた瞬間、それを遮るようにして、ギノさんと呼ばれた男性が話し始めた。正直、先程の自分の行動を棚に上げてムッとしてしまった。一方のかがりさんは、そんなことは全く気にしていないような雰囲気だった。
「えっと、はい、これ、監視官さんに、です。」
 極力、思ったことは顔に出さずに、荷物だけを差し出す。
「ご苦労。」
「じゃあ、ここに受け取りのサインをお願いします。それと、この紙にも。」
 そう言って、私は管財課支給のデバイスを起動させた。そして、紙とペンも渡す。
「でも、なんでドローンにやらせないんスか?わざわざお遣いとか、アナクロ過ぎません?」
「執行官には関係のないことだ。」
 バッサリ、そう効果音が聞こえてきそうなほどの物言いだった。ここまで来ると、流石にどうなんだろう、とか思ってしまうが、一方のかがりさんは相変わらず全く気にする素振りを見せない。言った本人である『ギノさん』も、そのポーカーフェイスを全く崩していない。流麗にペンを走らせ、綺麗な文字でデジタルサインと紙へのサインを終わらせた。
「えぇ~?ギノさんのいっけず~」
 それどころか、『ギノさん』をからかう勢い。
「ホラ、悠里ちゃんも言ってやんなよ、そんなんじゃモテないですよ~ってさ。」
 かがりくんは、内緒話でもするときのように、片手を口元に当てて、私にいたずらっ子のような笑顔を向けてくる。見る見るうちに、『ギノさん』の額には青筋が浮かんだ、ような気がした。
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