第15章 官能クライシス Ⅰ
「もう、ほとほと嫌気が差してるよ。」
秀星くんは、泣いたような怒ったような、何とも言えない表情を浮かべた。秀星くんは、この『社会』に対して嫌気が差しているだけじゃない。以前に、秀星くんが言っていた。この『街』に生きる『人間』にだって、もうどうしようもない感情を抱き続けているんだ。
「私も、この『社会』って、一体何なんだろう、って。でも、……身勝手かもしれないけど、どのみち私は、この『社会』でしか生きられないんだったら、もし選べるのなら、秀星くんと一緒にいたいなって、思っちゃった。」
そう。私個人が、どうこうしたところで、社会は変わらない。この『社会』のシステムが、シビュラが、感知すらもできない圧倒的な外力によって根本的に崩壊させられるような、そんなとんでもない出来事でも起こらない限り、この『社会』はきっと覆(くつがえ)らない。
「……悠里ちゃん、変わったね。」
秀星くんは、困ったように笑った。
「出会ったその日に、私は秀星くんから「変わってる」って言われたけど?」
私は、出会った日のことを、遠い昔のように思い出しながら、軽く。
「そーゆー意味じゃないし!」
秀星くんは、むすっとした顔をして、しっかりと私の方に顔を向けた。その顔が妙に幼くて、笑ってしまった。
「ぷっ……!」
「あー!悠里ちゃん、笑ったなー!」
もう、いつもの秀星くんだった。
「だって、秀星くん、可愛い!」
「可愛いって……。もういいや……俺、シャワー浴びてくるから!」
秀星くんは、やや不服そうな顔を浮かべた後に立ち上がって、奥へと行ってしまった。その顔は、少し赤かった気がする。