第15章 官能クライシス Ⅰ
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「座っ……て?」
秀星くんに言われて、数時間前に座っていたソファに、再び腰かける。涙は、もう随分とおさまった。
「俺、何か飲み物持ってくるから……」
「ありがとう。でもいい、要らない。」
飲み物なんて、今は要らない。
「その代わり、こっち、座って……?」
私は、自分が腰かけているソファの空いているスペースを指さした。
「ん……。」
秀星くんは、一瞬躊躇するような表情を浮かべたけど、私と少し間を空けて、隣に座ってくれた。
「ごめんね、秀星くん。さっきも言ったけど、狡噛さんに、色々、聞いたの。『執行官』のことも、その……『施設』のことも。でも、私が狡噛さんに無理矢理頼んだだけで、狡噛さんは、悪くないの。」
「いいよ、俺がきちんと悠里ちゃんに説明しなかったワケだし。それに、悠里ちゃんがコウちゃんに、結構な勢いで頼んだんでしょ。」
秀星くんは、こっちを見ないままだったけど、穏やかな声。
「え……」
もしかしたら、私が狡噛さんの部屋を出る以前にも、秀星くんに連絡を入れていた?「シャワーを浴びる」って言ったとき?
「コウちゃんが俺に連絡くれた。」
「そうなんだ……。」
「うん。」
「で、どうだった?」
「うん……。」
流石に、『犯罪係数』のくだりは、秀星くんに話すことが躊躇(ためら)われた。いや、どの内容も、秀星くんにとって、絶対に気分が良くなる内容ではないけれど。でも、私が狡噛さんに聴いたこと、その内容を、秀星くんに伝えてみた。秀星くんは、黙って、私の話を最後まできいてくれた。
「『執行官』のこと、『施設』のこと。狡噛さんと、いろいろ話をしたけど、この『社会』についても、少しお話ししたの。」
「ん……。」
秀星くんは、少し私の方に顔を向けた。
「この『シビュラ社会』は、何だか……もうよく分からないね。便利で安全で綺麗で、もう疑う余地もない『社会』のはずなんだけど、すごく非人間的。」
「俺は……、こんな世の中を作り出した『シビュラ』をぶっ壊してやりてぇよ。」
秀星くんは、吐き捨てた。きっと、これが紛れもない、秀星くんの本音なのだろう。
「……。」