第15章 官能クライシス Ⅰ
「―――――……」
今、微かにだけど、秀星くんの声が聞こえた気がする。私の気のせいかもしれないけど、それでも振り返る。秀星くんは、俯いたままだった顔を上げていた。そして、唇を動かした。
「俺は、悠里ちゃんが、好き。」
真っ直ぐに私を見つめた秀星くんの瞳はこんなにも強いのに、ほんの少し揺らいでいた。
「悠里ちゃんが、大好き……」
「―――――っ……!」
私は、堪らなくなって、秀星くんに駆け寄った。もう、私の視界は散々に滲んでいた。両手で涙を拭っても、なんでだろう、次々と涙が溢れてきて、止まらない。
「……、さっきはゴメン。本当にゴメン!反省、してる。だから……、だから、悠里ちゃんさえ、よかったら、その……、もっかい、俺の部屋、来てくれる?」
肝心なところで、視界がぼやけていて、秀星くんの顔がはっきり見えない。でも、秀星くんの声は震えていた。秀星くんは、私の頭にぽん、と片手を乗せながら言った。秀星くんの手の感触。なんでか分からないけど、安心する。
「ん……」
私は、うまく言葉が出てこずに、首を縦に振った。
秀星くんは、私の手を引いて、歩き出した。さっきはあんなにも冷たく感じた秀星くんの手は、不思議と温かく感じた。