第14章 『執行官』 Ⅰ
「シビュラシステムによれば、『犯罪係数』は、人間の真価に関わる数値だと謳(うた)われている。ちなみに、『犯罪係数』は、遺伝的資質と因果関係があるとか、デマが流れたこともあったが、科学的には真偽不明のまま、放置されている。」
「何、ですか、それ……。」
人間の真価?本当の価値ってこと?それが、数値化されたものが『犯罪係数』?じゃあ、何?今、私の目の前にいる狡噛さんも、あんなに優しい秀星くんも、この『社会』における人間としての価値が相対的に低いから、『潜在犯』で『執行官』ってこと?少なくとも、『シビュラ』はそう判断して、この社会を―――――
「―――――……。」
絶句してしまった。いや、何も知らなかったわけじゃない。『潜在犯』とは、安全な『社会』を営むにあたって、その障害となりうると判定された存在、異端であり脅威。だから、その『悪意』が伝染しないよう、『社会』から隔離された脅威。脅威だからこそ、『健康な市民』から忌避される。私は、ただただ漠然とそれを受け入れてきた。でも、秀星くんは―――――
「じゃ、じゃあ、『執行官』って……?」
私の声は、情けなく震えていた。
「『悪意』を嗅ぎ取り、狩り出す猟犬。俺たち『執行官』は犯罪者と同じく、『犯罪係数』が高いことは知っているな?だからこそ、犯罪者の心理傾向をより正確に読み取れる。そうやって犯罪者を見つけては狩るのが『執行官』。まぁ、犯罪者を見つけ出して狩るとは言うが、別に俺たち『執行官』が、自分の裁量で『犯罪者』に裁定を下すわけじゃない。ドミネーターを向ければシステムが勝手にサイマティックスキャンをする。俺たち『執行官』は、『シビュラシステム』に言われるがままに、『犯罪者』を『処理』するだけだ。」
この前、秀星くんは『執行官』の仕事のことを、『殺し屋稼業』『最悪の汚れ仕事』と評していた。『執行官』の仕事は楽しんでいる、とは言っていたけれど。それでも、『執行官』を辞めたり、休んだりできたりは、しないものなのだろうか。途中で、別の道に進むことも、出来ないのだろうか。