第14章 『執行官』 Ⅰ
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15分後、狡噛さんの部屋の前に立って、呼び鈴を鳴らそうと思った瞬間に、出入り口の扉が開いた。あまりのタイミングの良さにビックリしたけど、この際細かいことは、気にしない。入り口でもたついてはいけない。
基本的な部屋の間取りは、秀星くんの部屋と同じのようだったが、狡噛さんの部屋は全体的に薄暗かった。無駄が省かれた殺風景な部屋に、ダンベルやサンドバッグが置かれていた。現場へ出動しているとき以外は、公安局の刑事課のフロアか執行官宿舎にいる『執行官』に、プライベートなるものがあるのかは分からないところだけど、それでも秀星くんの部屋とのあまりの差に、驚いてしまった。いや、多分秀星くんの部屋に、遊ぶものが多すぎるのだとは思うけど。
「適当に座っていい。」
リビングに通された。テーブルには、さっき狡噛さんが飲んでいたものと同じ種類のミネラルウォーターが新品で2本、テーブルの上に置かれていた。
狡噛さんは、テーブルの上のペットボトルを手に取って、立ったまま飲み始めた。そう言えば、秀星くんもだけど、いつも腕にデバイスを付けてる。あれは、支給品なのだろうか。シャワー後ぐらい、外せばいいのに、なんて思ってしまった。
「それよりアンタ、時間はいいのか?もう7時になる。家族が心配するだろう。」
「大丈夫です。」
以前、秀星くんにも同じことを言われたことがあるなぁ、なんて、ふと思った。
「私、独り暮らしですから。それに、特にこの後も予定がありませんし。」
「そうか。なら、手短に終わらせる。何から聞きたい?」
改めて、何から聞きたいかと問われると、迷ってしまう。目を閉じて、今まで秀星くんと一緒にいたときのことを思い出す。
「じゃあまず、『潜在犯』って何ですか。」
「アンタも知っているだろう。『犯罪係数』が100を超えた重篤患者だ。」
そんなの、知ってる。
「『色相』っていうのは、諸々の生体反応を色相化したものですよね。じゃあ、『犯罪係数』って、何なんですか。」
「簡単に言ってしまえば、犯罪者としての適格、適性と行ってもいい。」
間髪入れずに帰ってきた答えは、簡素なものだった。
「適性?そんな、職業適性みたいに……。」