第14章 『執行官』 Ⅰ
狡噛さんは、一瞬だけ目を見開いたと思ったら、フッと笑った。あれ?
「―――――全く、縢はとんでもない――――いや、俺が言うことじゃないか。」
「え、えっと……。」
「いや、いい。忘れてくれ。縢のヤツ、時々アンタのことを俺に話してるよ。チョコレート貰った、とか何とか、色々とな。」
狡噛さんが秀星くんのことを話すとき、まるで優しいお兄さんのような顔をしたけど、すぐにいつもの表情に戻った。色々って何だろう……気になるけど、今はそっちじゃない。
「立ち話には相応しくない話題だ。流石に、ココで話すわけにもいかない。刑事課オフィスも難しいな……。」
基本的に『執行官』は、刑事課フロアと執行官宿舎しか移動できないって、秀星くんに教えてもらった。それは、狡噛さんも一緒なのだろう。
「あの、もし、狡噛さんの都合さえ良ければですけど、狡噛さんのご自宅でも、私、伺います。」
狡噛さんは、一瞬私を見た。
「見つからないようにな。」
「はい。監視官さんに見つからないようにします。」
「……。縢にもだ。」
「え?」
狡噛さんは、軽く溜め息を吐いて、部屋の位置を教えてくれた。シャワーを浴びて着替えたいという理由で、今から15分後に来るように、とのことだった。時間をずらすことで、もし私が見つかっても、怪しまれないようにするための配慮でもあるらしい。狡噛さんはやっぱり、頭が良くて気の利く、優しい人だと思う。