第14章 『執行官』 Ⅰ
「俺さ、5歳――――たったの5歳でサイコパス検診に引っかかってさ―――――、治療更生の見込みゼロ、19で『執行官』になるまでずっと、更生施設にブチ込まれてて――――――」
秀星くんの声が、私の頭の中で再生される。私は、それがどういうことかも分からないし、秀星くんに秀星くんのことを話してもらっても、その意味するところさえも分からない。なんで、一緒にいるのに、目の前にいる秀星くんが何に悲しんでいて、何が苦しいのかも分からないの?そんなの、悔し過ぎる。それに、私は「後に引かない」んだから。
「狡噛さん、少しでいいです。少しでいいですから、この『社会』のこと、『執行官』のこと、私に教えてください。」
「だから、今やめた方がいいって言っただろ。」
狡噛さんは、煙草の煙を吐き出しながら、私を視界に入れてくれた。狡噛さんと目が合う。鋭い目線が、私に注がれている。私は既に怯みそうだけど、狡噛さんから視線を逸らさない。
「だって、狡噛さん、さっき言ってたじゃないですか。「別に、知りたいと思うのは自由だ」って。じゃあ、私は今、その自由を行使します。狡噛さんに私のお願いをきかなくちゃいけない義務はありませんけど、ひとりの大人として、自分の発言に対して、少しは責任を取ってください。わ、私に分かるように、少しは噛み砕いて教えてください!それに、今、このモヤモヤした気持ちのままで家に帰った方が、私の色相が長時間にわたって次第に悪化する可能性だってあるんですから……っ!」
言った。言い切った。言い切ってしまった。……どうしよう。